のぶ子のためは、ためにならぬか

休みをもらって、昨日から実家に帰ってた。

のぶ子が転院してから初めてのお見舞いだ。

平成15年から何度も脚を骨折してリハビリでお世話になってた病院。

あまりも何度も過ぎて、
父が隠し通したときはお見舞いにも行ってなかった。

さすがに今回は様子を伺いに行っとかないとなと思ってたし、
父のご飯のことや家の掃除のことやらが心配だったので行ってきたのだ。


14時過ぎに実家に到着し、
父を乗せて病院に。

とりあえず着替えとか必要だろうと思ってたけど、
その前の日に紙パンツとかタオルとかを持って帰らされたと父が言うので
ゴミ袋を持って行った。

前の病院では何でもかんでも1つの袋に捨ててたので、
分別できるようにと思って。



病室に着くと、
のぶ子が、
「まあ、来てくれたん」
とうれしそうに迎えてくれた。

ベッドに腰掛けてリハビリの先生を待ってたらしい。
15時からリハビリがあるからと。
なんかとても張り切ってた。

まだ15時になってないのにエラい張り切りようだと思った。

前に入院してたとき、理学療法士の先生は若くて可愛い男性だった。
年を重ねても若い男性が好みなのだ。

その先生を待っている間に、ウンチをもらしたらしく、
さっき看護師さんにきれいに拭いてもらったと
少し恥じらいながら、でも、
パンツの中がうんちだらけだったと誇らしげに語ってきた。

急に行きたくなってナースコールしたのだが、
間に合わなかったらしい。

トイレは車椅子に乗って連れてってもらい、
トイレに自分で腰掛けてできるようになったとのこと。

おおおおお、進歩だ!
前までは、ポータブルトイレに行くのでさえままならなかった。

ズボンの上げ下ろしやオシモを清潔にするのは今でもできないらしいが、
方向転換が前よりできてる感じだった。

さすがリハビリ病院。



しばらくすると、のぶ子が爪を切れと言い出した。
爪の角が隣の指に刺さるのが気持ち悪いからだそうだ。

まあ、自分では切れないから仕方ない。

だけど、どの指が刺さってるのか、
どの位置で刺さってるのか、
全く分からない。

「ここ!ここやねん!」
と言うけど、全部指を揃えて親指で指し示すので
どの指を差してるのか分からないのだ。


仕方ない、すべてきれいに切りそろえましょう。
ということで、切りにくい爪切りで親指から切り始めた。

前に家で足の爪を切ってあげたときは、
ふやかしてから爪切りばさみやヤスリと爪切りと使った。

母は巻き爪なのだ。
足の爪は分厚いから、ふやかさないと身を切ってしまうからかなり慎重にやった。

今回はふやかせないし、爪切りだけ。

おまけに、のぶ子はかたくなに指を私が言うように出してくれない。
グーをした状態で切ってくれと言うのだ。

「パーをして、私に手を預けてくれないと切れません」
そう何度言っても、手を自分の方に引っ張っていく。

なんとか身を切らないよう注意して切ってると、
「痛い!」
って何度も声を上げる。

わざと痛くしてるわけじゃない。
刃物持っているときに手を動かされたら、
切りたくなくても切れてしまうじゃないか。

そうしてるうちにやっぱり小さな傷を作ってしまった。
言わんこっちゃない。



ばい菌がはいったらアカンと思って、
ノンアルコールだけど除菌のウエットティッシュで指先と爪をきれいに拭いてやったら、

なんなの?すごく汚い。
拭けば拭くほど指先がきれいになっていく。

お母さん、ウェットティッシュ使ってないの?と聞くと、
「いつもベッドの上に置いてるねん」とのこと。

マジか。
確か、抗がん剤治療したら免疫力低下するからばい菌には極力注意してと言われたはず。

カラダを拭いてもらってるにしても、自分でも意識してほしい。


切り終わったら、またウンチがしたくなったらしく、
「早く車椅子持ってきて!」
「早く看護師さん呼んできて!」
と私に指示し始めた。

ど、どこに車椅子があるのよ??
とにかくお母さん、ナースコール押してちょうだいさ。

大騒ぎしてるうちに看護師さんが来てくださって、
トイレまで連れて行ってくれた。


外で待ってたらのぶ子の大きな声が聞こえてきた。
「もう来はった?若い男性」

それを聞いて私はブッと吹き出した。
どんだけ若い男性が好きなのか。

まるでデートの相手を待っているかのようで
おかしくてたまらなかった。


トイレでスッキリしたあと、
廊下でお迎えを待ってるときも、
あのお兄さん、まだかしら?もう来るかなとひたすらつぶやいてた。

「あ、来た?♡」と人が見えるたび目を輝かせる。
あの人は女性やで、と答えると、
まだかまだかと首を伸ばす。

「遅いなぁ」
今度は父も言い出した。

前の人が押してるんちゃうの?
待ってたら来てくれはるから黙って待っとこ。

そう言っても、聞く耳持たず。
(いつものことだもの)

そうこうしてたら、理学療法士の先生がやってきた。
「今日はなんでこんなに遅いの?」

その姿は、遅れてきた彼氏につめよる彼女だ。
横に旦那さんがいるのにそれはないだろって思うのだが、
のぶ子だからか、すべてがおかしくってたまらない。

結局、正しい時間は15時20分からだから15分にお迎えだったことが分かった。
間違いなく正しい時間だった。
前の日は早かったらしく15時頃お迎えだったらしい。

リハビリが始まるなら帰ろうと私が言うと、
まあ見ていき、と父が言うもんだから残ってただけなのに、
「娘がリハビリ見たいって言うから見せたげて」
とのぶ子が先生に言った。

(いや、私そんなことひとことも言ってないし)

リハビリルームに入ると、父は入り口付近の椅子に腰掛けて、
私に母の様子を見てきなさいと言ったので、
車椅子の後を追いかけた。

(先生がこちらを誘導するように何度も振り返るから仕方ない)

平均台みたいなところで歩く練習をするところだ。


後ろから手を添えてもらいながらのぶ子は元気よく歩いた。
私こんなに歩けるのよ!と言わんばかりに
鼻息荒く、左手を前に出して棒を掴みながら進んでいってた。

全く歩けなかった人とは思えないほど、
歩く意欲に満ちあふれていた。

前は、「歩けない、全部やって」と丸投げ状態だったのに。
弱ってたときは、それは自分が悪いとまで言ってたのに。
あのときとは別人だ。


先生が私のところに来て、リハビリで目標としていることを説明してくれだした。
そして、ポータルトイレにひとりで行けるような動きを中心にしていることを教えてくれた。

私が手すり持ってなかったら後ろに倒れそうに見えることと、
何度も仰向きにこけた事実を伝えたところ、
手すりを持ってなかったら後ろに倒れ込むので後ろから支えていると言ってた。

そして、家に戻っても、つきっきりの状態になるだろうってことも。


そんなのお父さんひとりで対応できるとは思えない。
私も妹も仕事があるからずっとみてられない。

果たして…と心配になった。

うちは部屋ごとに段差があるので、
車椅子は使えない。

自分で歩いてある程度家の中をウロウロできるようにならないと帰ってきても
また病院に逆戻りになるのが目に見えている。

そんな話をしてたら、

「あんた、もう帰って!」
「あたし、リハビリしたいのよ!」
ときた。

先生を独占されたと思ったか。
だれのために話を聞いてると思ってるんだか。

今後の生活のことを現実的に見つめて対応する人がいなくてどうやってくのだろうか。

父は現実を直視したくない。
今まで通り、家のことは母にやってほしいし、自分のことは自分でやってほしいのだ。

だけど、そんなことできるようには見えないし、
できないと言われた。

それが現実なのだ。


その傍で、「帰って!」もないだろうに。

ま、いいですよ。帰りますか。
こちらも買い物に、掃除や晩ご飯の用意やらもいろいろ待ってるから。

なんとも自分中心の人だね。
致し方ない。


でも、よく考えると、元来ののぶ子が戻ってきたということだ。
一時期のしおらしいのぶ子はどこ行った?

コレがホントののぶ子なのだから、いいのだろうけど。

あの人のためと思ってすることでも、
ありがた迷惑だと思われるならやりたくなくなる。

子どもの頃はそれが、「全否定された」と思ってツラかった。

今は、またやってるわ、と思えるようになったし、
傷つけられるいわれもない。


今日も「何しに来たん?」と開口一番に言われた。

(あなたのパジャマと靴下を買って持ってきたんですわ)
そう言いたかったけど、黙って見送った。

これがのぶ子。のぶ子様なのだ。

「あれに何年付き合ってると思ってるん?」と父が言う。

私も生まれたときから付き合ってますぜ、そう言いたい。




私の過去が明るいものに書き換わってから初めて会ったのぶ子は、
最強の自己中心的わがままのぶ子になってた。

恐るべし、のぶ子。

絶対変わらないわがまま性。長生きする。



のぶ子のためにすることは、のぶ子自身がありがたく受けとめることはない。

むしろ、ねじ曲がって受けとめられるところがスゴいと思う。


「人の振り見て我が振り直せ」
のぶ子の辞書にはない。

私の過去には鉄人のようなのぶ子はいなくなり、
ただ明るい世界が広がり、小さな私が笑顔でいる。

もうそれでいいんじゃないかと思う。

わがままを貫き通すのがのぶ子の生き方なら、
生暖かく見守ろう。


ためにならぬことでも娘の立場ならするってこと。

よっぽどできた娘なのだから。

人から言われて、きっとまた自慢する。
「できた娘を産んだのはわたし」だと。

笑うよね。おかしい。できる娘だ。笑




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