のぶ子、カツラをかぶる

のぶ子が脱毛した。
抗がん剤の副作用によるものだ。

入院中から髪の毛が抜け始めたと言っていた。

ベッドの上や、ベッド回りの足元にも
抜け落ちた髪の毛がチラチラ見えていた。

退院した次の日に実家に行ったときは
結構な脱毛だと気づいていた。

しかし、のぶ子たりとて女性の端くれ、
あまり触れられたくないかと娘でも遠慮した。

前回の記事「のぶ子、人をこき使う」でも書いたが、
その日は介護の相談のためにケアマネジャーさんが来てくださる日だった。

だから、私が実家に到着したときは、
カツラをかぶってのお出迎えだった。

リビングのソファに座ってのお迎えだったけど。

ウェーブがかかったショートヘアのウィッグは
妹の義理母のものだ。結構いいウイッグだ。

それがのぶ子の頭の上にちょこんと乗っかって
なんだか奇妙なキノコのように見えた。

本人はいたって真面目な顔をしてるから
余計おかしさがこみ上げてきたんだけど、
その感情をやり過ごした。

ケアマネジャーさんが帰られた後、
蒸れるからとウィッグを外した頭を見て、
ちょっと息を飲んだ。

痛々しいという思いと
薬が効いてよかったなという思いが交錯した瞬間だった。


家の中にいる間は自然のままでいる方が楽らしく、
病院でもらったか買ったかしたタオル地の帽子をかぶり
本人は特に気にもせず過ごしていた。

翌日やってきた妹夫婦を迎える時はさすがにウィッグをかぶった。
「使ってるよ」アピールのために。

妹は母のウィッグを櫛で整えはじめた。
なじむようにらしい。
そして、頭の上に乗ってるだけのウィッグをグイッと頭にフィットさせた。

ウェーブというよりカーラーで巻いたクリンクリンとした毛並み。
櫛でなじませるといい感じに見えた。

本当は黒いメッシュの帽子みたいなのをかぶってからウィッグをかぶるらしい。

それをかぶるのがイヤだからと、そのまま「乗せて」いたようだ。

何事にもめんどくさいが出てくるのぶ子。
私自身もついめんどくさいと思うところがある。

親子だからか。
元々の性分なのか。いいのか悪いのか・・・。


抗がん剤治療が終われば、髪の毛はまた生える。

それまでは借り物ウィッグでオシャレに決めてくれたらいい。

ソファに腰掛けてテレビを見ているのぶ子の姿は、
よく言えば微動だにしないお地蔵様のようで。

そこにウィッグを乗せてるだけの姿で1日を過ごしているかと思うと、
なんだか笑えてくる。

お地蔵様にお供えしたものはすべてお腹に入れて、
満足している姿も笑える。

「若い頃はスマートだったよ」
「モテモテだった」
らしいのぶ子。今の姿からは想像もつかない。

めんどくさいことはすべて父にまかせ、
自分は身動きせずにひたすら食べる、食べる、食べる。

いいねぇ。

しあわせな人生。自分が望む人生なんだろうな。


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