のぶ子、ミシンをゲップする

のぶ子は若い頃、内職をしていた。 フェルトのサンタクロースが家の中にあふれてたのを覚えている。 フェルトといっても、手芸屋さんで売ってる 厚みのある生地のことではない。 クリスマスシーズンになるとよくスーパーも売ってるサ ンタのお菓子袋みたいな生地といえば分かりやすいだろうか。 金色の山道テープ(波波のかたちのリボンみたいなもの)を 生地の縁取りにミシンで縫い付けてたのか、 ボンドで止めていたのか覚えていないけど、 キラキラしてて可愛いなと思ってた。 当時のミシンと言えば、 足踏みミシン。 みぎひだりと足を踏みふみしながらミシンを動かしてた。 私はまだ2歳ぐらいの時かな。 ほとんど覚えていないけれど、 サンタの赤い帽子だけはよく覚えている。 さて、のぶ子は意外と裁縫ができた。 今では針に糸を通すことは大変になったけど、 まだ若かりし頃のことだからね。 私たちが小学生に上がって、カバンとかぞうきんとかを縫うのに必要になったら のぶ子が作ってくれた。 いや、カバンはどうだっただろう? スカートとか夏用のワンピースとかは作ってくれたかな。 簡単まっすぐ縫いのやつ。 でも、子どもの頃はのぶ子作のワンピースをよく着てた。 ゴムがきつすぎて、胸とお腹にゴムの跡がついたけど。 その頃かな、ジャノメのミシンをゲップで買ったのは。 ゲップ=月賦のこと。 つまり、何回払いか月々で支払うってこ…

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のぶ子、頂戴をする

のぶ子の病室にある食事台の引き出しに、 みかんとぶどうと柿が詰め込まれてる。 父からの差し入れだ。 病院食だけでは足りない。 間の時間に食べるためなのだ。 お見舞いには何度も足を運んでいるが、 私は差し入れを持って行ったことはない。 向こうでお茶を買ってあげるぐらい。 なぜなら、「食べ過ぎ!」警報が主治医から出ているからだ。 もちろん、入院する前から会うたびに着々と肥えていくのぶ子に 焦りと不安を感じていたからというのもある。 後々介護することになったら、 果たしてこの重いカラダを支えられるのだろうかと心配だからだ。 介護の仕事をしている友達の話では、 上手く支えるやり方があるらしい。 ただ、私はそれを知らないし、腰痛持ちでもあるし、 私の体重の倍とまではいかないけれど、 それに近い体重を支える毎日を過ごすのは勘弁願いたいから。 せめて、10~15㎏ぐらいは減らしといてほしいのだ。 今更なことだけど。 さて、病室に行くと、のぶ子は 「おしゃべりしよう!」って言うか、 「何持ってきてくれたん?」と 右手を出してくる。 「ちょうだい」って子どもみたいに、手のひらを上に向けて 私の方に差し出す。 何も持ってきてへんよ、と言うと、実に残念そうな表情になる。 入院してからますます肌つやがよくなって、 カラダが丸くなったような気がするのは気のせいとは思えない。 入院中、退屈ですることが…

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のぶ子、自慢げなノータッチ

のぶ子がもうすぐ退院する。 相変わらず病人に見えないぐらい元気な様子だ。 そして、口が達者なのは永遠に変わらないだろうってことが容易に想像つく。 入院した当時に比るとて、さらにパワーアップしてる。 主治医も、おしゃべりの度合いで体調が分かるというから驚きだ。 さて、そろそろ入院費がいくらかかるか試算してもらおうと、 先日病院の会計担当さんに電話をしていろいろ相談した。 電話でも詳しい話を聞けたのだけど、 退院前にご家族に説明すると言われたので、 私が行けるときにとお願いして、今日時間を取ってもらった。 両親だけだと心許ないからだ。 電話で聞いた内容をまとめた紙をあらかじめ父に見せながら 担当者さんが来てくれるのを病室で待った。 お金のことだから、父にも理解してもらわないといけないから。 といっても、すぐに理解して、それを覚えていられるかどうかは別だけど。 今まで何度も足の骨折で入院を繰り返してきたのぶ子。 父にどれだけ迷惑をかけたことか計り知れない。 本人は至ってけろっとしたいるのだからなおやりきれない。 今回は「がん」という病気からだから仕方ないとはいえ、 治療費入院費がまたかかるのかと、父は心労が絶えない様子だ。 病室で説明している間も、暗い顔をして聞いていた。 ところがだ、のぶ子はベッドに腰掛けながら、 自分だけのけ者のようだと、説明してもらえないことに不服そうな顔をしていた。 (い…

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